過剰な興奮からシナプスを保護する仕組み

過剰に興奮した神経回路では、シナプス長期増強が抑制されている

2光子顕微鏡で観察したマウス海馬神経細胞のシナプス。通常、グルタミン酸刺激をするとシナプス(上段、白矢頭)が大きくなります(シナプス長期増強)。しかし過興奮した神経細胞では、シナプス長期増強が起こらなくなりました(下段)

脳のなかの神経細胞は、シナプスという構造を介して情報を伝達しています。私たちが記憶をするとき、シナプスの形が持続的に大きくなることが知られており(シナプス長期増強)、これによって記憶した情報が保存されると考えられています。しかしながら、シナプス長期増強はシナプスの興奮性を高めるため、てんかん発作やアルツハイマー病などで過剰に興奮した神経回路では、シナプス長期増強がより過剰な興奮を引き起こし、神経細胞に深刻なダメージを与えてしまう可能性が考えられていました。

私たちは、2光子顕微鏡を用いてマウス海馬神経細胞のシナプスの構造を観察し、シナプス長期増強がどのように制御されているのかを調べました。通常の神経細胞ではシナプスにグルタミン酸刺激を加えると、シナプスにカルシウムが流入し、それによりCaMKIIというタンパク質が活性化することでシナプス長期増強が引き起こされます。しかしながら過剰に興奮した神経細胞では、このシナプス長期増強が抑えられていることが明らかになりました。この抑制メカニズムを調べるために、シナプス内カルシウムのイメージングや、光によって活性化できるCaMKII(paCaMKII)を用いたところ、シナプスへのカルシウム流入やCaMKIIシグナリングが阻害されることによってシナプス長期増強が抑制されていることが分かりました。このように、神経細胞が過興奮に応答しシナプス長期増強を抑制することで、シナプスがダメージを受けるほど過剰に興奮しないようになっていることが考えられます。一方で、シナプス長期増強は記憶の形成にも関わっていることから、この抑制メカニズムが記憶障害の原因になっている可能性も考えられます。

これらの発見は、記憶形成のメカニズムや、記憶障害を伴う神経疾患の病態の解明につながることが期待されます。

書誌情報
  • タイトル: Chronic neuronal excitation leads to dual metaplasticity in the signaling for structural long-term potentiation
  • 著者: Hiromi H Ueda, Yutaro Nagasawa, Aiko Sato, Maki Onda, Hideji Murakoshi
  • 掲載誌: Cell Reports
  • 掲載年:2022
  • DOI: 10.1016/j.celrep.2021.110153

生命科学研究科 生理科学専攻 植田大海

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