新しいナノ材料で、生体脳の神経細胞を広く深く高精細にイメージングすることに成功

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新規開発した高分子超薄膜(ナノシート)の活用法
生体脳に対して高い接着率を実現する新規ナノ材料のナノシート(PEO-CYTOPナノシート)を開発しました。本ナノシートは透明性が極めて高く、素材としても頑丈かつ柔軟です。本特徴を活かし、曲面を持つ脳表に対して超広視野の二光子顕微鏡観察窓の作成に成功しました。

 私達の脳機能は、1000億を超える神経細胞が形成するネットワークによって成り立っており、このネットワークの異常が精神疾患の発症にも関連しています。そのため、脳のはたらきを解明する上では、細胞一つの活動だけではなく、広範囲の細胞を同時に観察することによってネットワーク全体の活動を理解する必要があります。

近年、特殊なレーザーを用いる「二光子顕微鏡」により、モデル動物を生かしたままの状態でその脳神経細胞を観察できるようになりました。脳深部で観察を行う場合には、不透明な頭蓋骨を透明で平坦なカバーガラスに置き換える手術が広く用いられています。しかし、観察領域が広いほど手術の難易度は高くなるため、従来は狭い領域のみを観察する研究手法が一般的であり、多くの細胞を観察することは困難でした。

この課題に対して、本研究では新規ナノ材料の高分子超薄膜 (ナノシート) を頭蓋骨の代替物として活用しました。ナノシートとは、高分子を素材とする厚さ100 nm程度の薄膜であり、高い柔軟性、接着性、透明性を持っています。本研究のナノシートは東海大学工学部の岡村陽介教授との共同研究で開発されたもので、従来用いられていたフッ素系樹脂ナノシートの表面に親水化処理が施され、生体組織に接着しやすくなっています。これにより、脳表面の出血や炎症を抑制しながら、頭頂部のほぼ全域を透明なナノシートで覆うことに成功し、麻酔をかけたハツカネズミの大脳皮質全層の神経細胞を広範囲で観察できました。

本研究で開発された手法は、これまで困難であった脳の広視野観察をより?理的な条件で可能とします。これにより神経細胞ネットワークに関する理解が深まれば、脳機能および精神疾患の詳細解明に繋がると考えています。

本研究は、「動物の愛護及び管理に関する法律」に沿って行いました。最低限の個体数を用いて、実験動物の安全と動物の福祉に配慮して実験を実施しました。

書誌情報

Taiga Takahashi, Hong Zhang, Ryosuke Kawakami, Kenji Yarinome, Masakazu Agetsuma, Junichi Nabekura, Kohei Otomo, Yosuke Okamura, Tomomi Nemoto, "PEO-CYTOP fluoropolymer nanosheets as a novel open-skull window for imaging of the living mouse brain" iScience (2020), https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101579

生命科学研究科生理科学専攻 高橋泰伽

生理学研究所バイオフォトニクス研究部門
URL: https://www.nips.ac.jp/bp/

【2020年度採択課題】

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