新種誕生の鍵となる『魔法形質』の進化理論

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「魔法形質」の進化
(A)魔法形質の例。鳥のくちばしの大きさという形質は、最適な餌のサイズを決めるため、局所環境への適応に関わる。同時に、さえずりの音色にも影響するため、同類交配にも関わる。 (B)魔法形質の定着確率の理論値。自然選択が同類交配よりも強いとき、定着が起こりやすい。また、小さい集団では、同類交配が比較的強いときでも、定着が起こりうる。

新しい種は、どのように生まれるのでしょうか。1つの種が2つの種に分かれるためには、種間の遺伝的交流を妨げる進化が起きなければなりません。そのような進化の有力なメカニズムに、局所環境への適応と同類交配があります。局所環境への適応が起こり、2つの集団が異なる環境に適応した場合、集団間の雑種個体がどちらの環境にも適さないために淘汰され、集団間の遺伝的交流が減少します。同類交配が起こり、各集団のメスが自らと同じ遺伝子型を持つオスを好むようになると、雑種個体が生まれにくくなり、遺伝的交流が減少します。この2つに同時に関わるような遺伝子は"魔法形質(magic trait)"と呼ばれ、新しい種が生まれる際の鍵になると考えられてきました。本研究では、今まで部分的にしか分かっていなかった魔法形質の進化の過程を、確率的なモデルを構築・解析することで、理論的に記述しました。

魔法形質が突然変異により生まれたとき、その変異が集団中に定着する確率を、集団サイズ、自然選択の強さ、同類交配の強さなどの関数として近似的に求めました(図B)。新たな変異を持つ個体は、変異を持たない個体よりも環境に適応していますが、他の個体と異なる変異を持つことで、交配相手として選ばれにくくなっています。解析の結果、自然選択による適応のメリットが、同類交配によるデメリットを上回るとき、定着が起こりやすいことが分かりました。また小さな集団では、同類交配の作用が比較的強い場合でも、定着が起こりうることが分かりました。さらに、ここでは詳細にはふれませんが、定着が起こるときに魔法形質が集団中にどのように広がるのか、理論的に明らかにしました。

本研究の理論により、どのような条件下で種が生まれるのかについて、理解が深まると考えられます。今後は、さらに複雑な状況を考慮した理論の構築を目指します。


書誌情報

Sakamoto, T., & Innan, H. (2020). Establishment process of a magic trait allele subject to both divergent selection and assortative mating. Theoretical Population Biology, 135, 9-18.

DOI: https://doi.org/10.1016/j.tpb.2020.07.001

先導科学研究科生命共生体進化学専攻 坂本貴洋

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