東南極、昭和基地周辺の湖の底に見られる微生物マットにおける光合成生物多様性の分析

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日本の観測基地である昭和基地周辺の湖群と湖底に広がる微生物マット
東南極、昭和基地周辺の露岩域には多数の湖が存在する。そのうちaに矢印で示した5つの湖を調査した。bはそのひとつ(a中の矢印3)。氷の下には比較的安定した水中環境が広がる。これらの湖において生物量の大部分を占めるのは湖底に存在する「微生物マット(c)」。この微生物マットはどれくらいの時間をかけて、どのように発達したのだろうか?(a)出展:国土地理院発行25万分1衛星画像図および2.5万分1地形図を加工して作成、(b, c)
撮影:東邦大学 島田

南極大陸は氷に閉ざされており、生物は存在しないというイメージがありますが、夏に雪が溶けて地表面が露出する露岩域には多様な湖が存在し、その湖底には「微生物マット」と呼ばれる、コケや藻類、シアノバクテリアといった光合成生物を中心とする生態系が見られます。微生物マットは湖によって異なる特徴を持つことが観察されていますが、どのようにし、違いが生じているのかについてはほとんど明らかになっていません。これらの地域の多様性を調査することは、生物がどのように極限環境に適応してきたのかを考えるための鍵となります。そこで我々はシアノバクテリアと藻類に着目し、日本の観測基地周辺5つの湖から得た微生物マット中の光合成生物の多様性を分析しました。顕微鏡観察下で光合成生物を形態学的に分類し、細胞数とそれぞれの大きさから分類群毎の生物量を推定しました。その結果、光合成生物の存在比や生物量は湖によって大きく異なることが明らかになりました。例えばある湖では珪藻と呼ばれる藻類が大部分を占める一方、他の湖ではシアノバクテリアが過半数を占めていました。こうした微生物マットの生物多様性の違いは、湖の環境状態や生物種の分散の起こりやすさ、さらに湖が形成されてから現在までに地理学的履歴などの要素によって生じると考えられます。今回得られた結果では、今後このことを科学的に裏付けられるか、また距離以外の要素が湖間の生物多様性の違いに及ぼす影響について解析を進めます。

派遣先滞在期間

2019/12/09~2020/02/15

国、機関名

チェコ共和国の南ボヘミア大学

ポスター発表

タイトル: Global calculation of neoclassical impurity transport including the variation of electrostatic potential

派遣中に学んだことや得られたもの

南ボヘミア大学の受入研究者であるJosef Elster氏は第60次南極観測隊に参加し、昭和基地周辺の湖沼から微生物マットのサンプリングを行っています(2018年12月~2019年1月)。彼は極域における藻類・シアノバクテリア研究の専門家です。そこで私の博士課程の研究を進めるために必要な知識や技術の習得、欧州の研究機関との連携を期待して今回南ボヘミア大学を訪問しました。派遣における目標として、微生物マット中の生物群集組成の解析の技術の習熟と南極大陸の光合成生物に関する分析研究手法の習得を掲げていましたが、微生物マット中の生物多様性を形態学的に調査する技術の習熟と、光合成生物の分類体系や極限環境への適応に関する知識を習得することができました。また、海外の研究設備の利用や、海外研究者とつながりが得られたことも有意義でした。

成果

上記に記載した内容について2020年2月12日~2月15日にチェコ共和国の南ボヘミア大学で開催されたPolar Ecology Conference 2020において、「Diversity of cyanobacterial benthic microbial mats in five lakes, Lutzow-Holm Bay, East Antarctica」というタイトルでポスター発表をおこないました。さらに2020年7月31日~8月11日に開催されるSCAR 2020 Open Science Conferencesで発表するため、要旨の作成および投稿しました。

複合科学研究科極域科学専攻 小山寛

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