東日本大震災で形成された、新しいトゲウオ集団にみられる急速な形態多様化の生態・遺伝機構

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津波後にみられたイトヨの生息地と、急速な採餌形態多様化の生態・遺伝機構
東北震災後に発見された、新規トゲウオ集団のエサをこしとる器官(鰓耙; Gill raker)に着目したところ(A)、その平均値が新規集団間(黄色のプロット)で急速に多様化していることがわかった(B)。鰓耙数の急速多様化は、海イトヨと淡水イトヨの交雑を背景とし、集団間の違いはエサ組成の違いによって説明できることが示唆された(C)。
研究概要の紹介文

多様な新規生息地の出現は、生物の新しい環境への進出、さらには多様化を引き起こすことが知られています。しかし、進出直後の集団は個体数の減少に伴って遺伝的多様性を欠くために、種内に保持されている遺伝的多型から生じる適応進化は困難とされてきました。では、遺伝的多様性を欠く新規集団から、如何に適応進化が生じるのでしょうか。我々は、2011年東日本大震災によって形成されたイトヨ(トゲウオの一種)の集団に着目し、この課題にとりくんでいます。

震災後、岩手県大槌町に多様な湧水池が出現、イトヨが進出しました。魚類では、異なる生息環境に適応進化した結果として、餌をこしとる器官(鰓耙)の数に分化が生じています。そこで、津波3年後の集団間で鰓耙数を比較したところ、急速な多様化がみられました。さらに、エサ環境に関連する環境変数との比較から、鰓耙数の多様性は適応進化の結果である可能性が示唆されました。次に、適応進化を可能とした遺伝的要因を解析するために、新規集団のゲノム構成を調べたところ、新規集団には淡水イトヨと海イトヨ間の雑種が含まれていることがわかりました。さらに、海イトヨの遺伝子浸透率が高いほど鰓耙数が多く、新規生息地間にみられる鰓耙数の分化の背景にある遺伝的変異は、交雑により生じた遺伝的多様性によって獲得された可能性が示唆されました。

今後、長期モニタリング、人為的に作出した交雑個体の野外放流実験と、より詳細な集団ゲノム解析を通して、遺伝的多様性を欠くとされる新規集団で交雑が生じた場合、如何に適応進化が生ずるのか明らかにしたいと考えています。

A) 訪問先・期間
フィンランド・2019/8/17-2019/8/29

B) 派遣によって学んだことや得られたもの
今回の派遣では、学位取得に向けて実施している博士課程の研究の未発表の知見を、ヨーロッパ進化学会にてポスター発表しました。ヨーロッパ進化学会は、マクロ系進化生物学分野において、北米進化学会と並ぶ世界的な会議であり、当該分野の重鎮から若手までが一堂に会する学会です。ポスター発表と専門性の高い研究者との議論によって得たフィードバックから、自らのデータや解釈を客観視し、今後の研究計画の詳細を詰めることができました。

遺伝学専攻,細木拓也

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