哺乳類における複雑な社会への進化過程を解明:真社会性であるデバネズミ二種にかかる淘汰圧の比較

【研究概要】

生物が形成する最も複雑な社会システムに真社会性(1)があります。アリやハチなどの膜翅目昆虫の社会に代表されるように、真社会性の種は、コロニーサイズが大きく、個体間で役割分業がみられる組織化された複雑な社会を作ります。真社会性は哺乳類を含む多くの分類群においてみられますが、このような社会システムは、どのような進化過程を経て出現したのでしょうか。本研究では、哺乳類において唯一真社会性になっている齧歯目デバネズミ科において、とくに群れ(コロニー)サイズの進化を対象として、新たに開発した進化解析手法を用いて分析しました。その結果、ハダカデバネズミとダマラランドデバネズミという真社会性二種で、前者のみが近縁種と比較して、コロニーサイズが増大化していることを世界で初めて明らかにしました。本研究によって、真社会性という複雑な社会システムの出現過程を詳細に明らかにすることができました。

【研究の背景】

ヒトが形成する社会は、生物界の中でもっとも複雑なものといえるでしょう。一方、ヒトの社会とは異なる複雑さを有した社会システムとして、真社会性が挙げられます。アリやハチなどの膜翅目昆虫の社会に代表されるように、真社会性の種は、コロニーサイズが大きく、個体間で役割分業がみられる、組織化された複雑な社会を作ります。それでは、このように複雑な社会システムはどのような進化過程によって出現したのでしょうか。

この問いに答える際、生物が進化してきた歴史を表す系統を考慮する必要があります。すなわち、系統的に近縁な種や、同じ分類群に属する種と比較することによって、真社会性はどのような祖先状態から現れたのか、真社会性の種にみられる特徴は他の種と異なるのか、それとも連続したものなのか、などの疑問に答えることができます。

真社会性は、哺乳類のなかでは齧歯目デバネズミ科の二種(ハダカデバネズミとダマラランドデバネズミ)においてのみ確認されています(図1;図3aも参照)。ハダカデバネズミは、最大で約270匹からなる大きな群れ(コロニー)を形成し、ダマラランドデバネズミは最大で40匹ほどです。これらコロニーサイズの最大値は、近縁の社会性(群れて生活しているが、真社会性の基準を満たさない)の種と比較しても大きな群れサイズです。この大きなコロニーサイズは、真社会性二種の大きな特徴であると考えられてきました。しかし、実際には、このように大きなコロニーは稀であり、コロニーサイズの平均は、ハダカデバネズミが75匹、ダマラランドデバネズミが11匹となっています。近縁の社会性種(四種)の群れサイズの平均は7匹から9.9匹の間にあります。また、単独種であっても、仔が母親個体から分散する前には複数個体が同居する状態となり、そのサイズは最大で約7匹になります。これらの近縁種と比較して、真社会性種(とくに、コロニーサイズが小さいダマラランドデバネズミ)のコロニーサイズが特別に大きな値かどうか、特殊な進化過程を経たかどうかは、定量的な検証が必要とされます。

また、真社会性が出現した進化のシナリオは、最祖先種(図3aの緑丸で囲った種)が社会性であるか、単独性であるかによって、大きく変わります。最祖先種が社会性であった場合、その特徴が拡張され、ハダカデバネズミにおいて真社会性が獲得されたと解釈できます。その一方、最祖先種が単独性であった場合、単独性から、中間段階である社会性を飛び越して、真社会性が跳躍的に出現したことになります。そのようなことがあり得るかどうか、検証が必要です。

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図1真社会性を示すハダカデバネズミ
【研究の内容】

今回、我々は系統関係を考慮した系統種間比較法(2)を用い、デバネズミ科10種の社会進化の道筋を推定しました。分析対象となった各種の形質(3)には、社会性か単独性かという社会形態(離散形質(3))、群れサイズという変数(連続形質(3))の二つの特徴がデータとしてあります。また、社会形態と群れサイズは相互に関連している(社会性の種は群れサイズが大きい)ために、分析の際、この関連も考慮する必要があります(図2)。形質間の関連の仕方には様々なパターンが考えられ、その分析には柔軟な手法の開発が必要とされます。このように複数の変数と、変数間の複雑な関連を同時に分析する手法は、これまでに存在しませんでした。今回、我々は、それらを同時に推定する計算機的な系統種間比較法を新たに開発し、この問題を解決しました(図2)。この手法を用い、祖先状態の推定、ハダカデバネズミとダマラランドデバネズミのコロニーサイズを増大させる淘汰圧(4)の存在を検証しました。

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図2 新しい系統種間比較の分析手法の概略。
従来の分析(左)では、離散形質、連続形質、二形質の関係それぞれを、独立に分析してきた。一方、本研究が開発した新手法(右)では、それら三点を同時に分析できる。利点として、二形質間の関係が複雑で、統計的に分析することが難しい場合であっても、推定できる点が挙げられる。

その結果、最祖先種の状態として、単独性と社会性、双方がありうることがわかりました(図3a)。この結果は、単独性から真社会性が跳躍的に出現する可能性を否定しないものです。また、ハダカデバネズミとダマラランドデバネズミという真社会性二種で、前者のみが近縁種と比較して大きなコロニーサイズを持っている(淘汰圧が検出される)が、後者では、コロニーサイズの増大は認められませんでした(図3c,d)。このことは、コロニーサイズという観点からすると、ハダカデバネズミは特殊な進化過程を経たのに対し、ダマラランドデバネズミは他の社会性種と変わらないということを示しています。各種が示す社会形態と群れサイズの二つの関係については、群れサイズが増加することによって、単独性から社会性に変化する確率が急速に増加する関係を表す関数を想定しました。その形状を推定した結果、2匹から4匹あたりの群れサイズを持つ種において、単独性から社会性への移行が起きやすいことが示されました(図3e)。この結果は、新しい手法によって、研究者が実際には測定することができない潜在的な形質間の関連を推定できることを示しています。

分析には、新たに開発した、ベイズ統計学を用いた系統種間比較法を用いた。本図では、500データから成る事後分布の分析結果を示している。10種のうち、ハダカデバネズミ(オレンジ)とダマラランドデバネズミ(紫)の2種が真社会性の特徴を示す。その他の種は、単独性(水色)、社会性(赤)のどちらかの社会的特徴を示す(種名右の四角)。種分化した時点の種の社会形態と群れサイズ(95%信用区間)の推定値は、円グラフと括弧内の数値範囲で表している。最祖先種の社会形態は単独性と社会性、双方の可能性が示唆されたが、その群れサイズは2頭以上を含む広い推定値が得られた(b)。真社会性二種の群れ(コロニー)サイズが増大させる淘汰圧の強さ(1を超えると淘汰圧が存在する指数)の事後分布を検証したところ、ダマラランドデバネズミに至る過程(c)では淘汰圧が検出されなかった(分布の16.4%が1以下であり、指数が1と統計的に異なるということはなかった)。このため、ダマラランドデバネズミの群れサイズは近縁の社会性の種と統計的には異ならないといえる。その一方、ハダカデバネズミの場合(d)、コロニーサイズを増大させる淘汰圧が検出された(分布の3.4%のみが1以下)。このため、ハダカデバネズミのコロニーサイズは他の種と比べ、淘汰圧がかかった結果、大きくなるように進化したといえる。10種のデータから、社会性という離散形質と、群れサイズという連続形質の関係を同時に推定したところ、群れサイズが大きくなるほど、単独性から社会性に移行しやすいという関連が推定された(e)。
【結論・考察】

本研究では、系統種間比較と呼ばれる分析手法を発展させ、複数の形質とその関連を同時推定する、新しい手法を開発しました。この手法を用いて、デバネズミ科における社会進化の道筋、とくに、同じ真社会性という性質を持つ二種への進化過程の間にも性質の違いが存在することを世界で初めて明らかにすることができました。

今回開発された分析手法によれば、複雑に関連し合う複数の特徴、およびそれらの特徴間の関係を同時に推定することが可能になります。この新しい分析手法を使って、従来分析することができなかった複雑な形質間の進化関係を明らかにできると期待されます。今後、さまざまな研究への応用・展開を目指しています。

【論文情報】

論文タイトル: A multivariate phylogenetic comparative method incorporating a flexible function between discrete and continuous traits.

掲載誌:Evolutionary Ecology

DOI:10.1007/s10682-019-10011-6

和文タイトル:離散形質と連続形質を結ぶ柔軟な関数を組み込んだ多変量系統種間比較法

【著者】

羽場優紀 (プリンストン大学・進化生態学部・大学院生)

沓掛展之 (総合研究大学院大学・先導科学研究科・教授)

【用語解説】

(1) 真社会性(eusociality):世代の重複、親以外の個体による子育て、繁殖しない個体を伴う役割分業の三点を満たす社会の総称。アリやハチなどの膜翅目の昆虫が一般によく知られているが、その他、多くの分類群にて、その存在が確認されている。哺乳類では、齧歯目デバネズミ科のハダカデバネズミとダマラランドデバネズミの2種のみが真社会性の基準を満たしている。

(2) 系統種間比較(phylogenetic comparative method):種が分化してきた歴史を表す系統関係(phylogeny)を元に、生物の特徴がどのように進化してきたのかを調べる統計手法の総称。祖先種の復元、進化速度の推定、特殊な適応進化の検出などができる。

(3) 形質(trait):生物が示す特徴の総称であり、その特性により、変数が不連続でカテゴリーとして表すことができる離散形質(discrete trait)と、変数が連続しており、数値として表すことができる連続形質(continuous trait)に分類できる。本研究の場合、単独性か社会性かという社会形態が離散形質であり、群れ(コロニー)サイズは連続形質である。

(4) 淘汰圧(selective pressure):世代を経るうちに、生物が最適な形質を獲得・維持する適応進化のプロセス。本研究の場合、真社会性の種が、社会性の近縁種よりもコロニーサイズを増大させる淘汰圧を受けた可能性を検証している。

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