ボノボの集団間において、オス間には競合関係があるがメスは寛容で協力的な関係をもつ

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【研究概要】

ヒトの集団間関係の進化、特に「戦争」の起源を考える上で、しばしばチンパンジーの集団間関係との比較が行われてきました。チンパンジーの集団同士は非常に敵対的で、時には他集団の個体を殺すこともあります。しかし、チンパンジーと同じくヒトと進化的に最も近縁なボノボにおいては、集団間の激しい攻撃的な交渉は見られず、それどころか異なる集団の個体同士が混ざり合って共に採食をしたり、親和的な交渉を行ったりします。

私たちは、コンゴ民主共和国ルオー科学保護区において野生のボノボを4年間にわたって観察し、攻撃交渉のパターンを集団内で起こったものと集団間のもので比較しました。その結果、集団の異なるオス同士にはメスを巡る競合が存在するが、メス同士は集団が違ってもお互いに寛容であることがわかりました。さらに、攻撃的な行動をしたオスに対して、集団の異なるメス同士が協力して攻撃を加えることもあり、メスは集団を越えた協力関係を築くことができることもわかりました。ボノボは集団内でメスが社会的に高い地位をもつことが知られています。そのため、集団間のオス同士に競合関係があっても、メスの意思決定が優先されて平和的な集団間関係が保たれていると考えられます。

【研究の背景】

安定した集団を作る動物において、集団間の関係は多くの場合排他的・敵対的です。食物や繁殖相手など、限られた資源を防衛することがその集団に属する個体にとって利益となるためです。その中で、ヒトは非常に複雑な集団間関係を持ちます。ヒトの集団同士は時に強い敵対関係に発展し、「戦争」が起きてしまうこともあります。一方で集団同士、または異なる集団に属する個人同士で協力関係や親和的関係を築くことができます。ヒトにおける集団間関係、特に「戦争」の起源を考える上で、しばしばチンパンジーの集団間関係との比較が行われてきました。チンパンジーにおいて集団同士は非常に敵対的であることが知られています。特にオス同士は強い敵対関係にあり、徒党を組んで行動圏の境界をパトロールし、多数頭で協力して他集団の個体を殺すこともあります。このようなチンパンジーの集団間の激しい敵対関係は、自集団が持つ繁殖相手や採食場所といった資源を守るための行動として適応的であるということが明らかになりつつあります。しかし、チンパンジーと同じくヒトと最も近縁な類人猿であるボノボは、チンパンジーとは大きく異なる集団間関係を持ちます。ボノボの集団同士の行動圏は大きく重複しており、集団同士が頻繁に出会います。集団が出会うと攻撃的交渉も観察されますが、集団間の殺しは見られず、集団同士が混ざって数時間から数日の間一緒に過ごします。異なる集団の個体同士の毛づくろいや遊びなど、親和的な行動も観察されます(図1)。  

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図1 3集団のボノボが混ざり合って毛づくろいをしている様子

チンパンジーとボノボは、野生ではコンゴ川により生息域が分かれていますが、飼育下では交雑してしまうほど近縁です。それなのになぜ、こんなにも集団間の関係が異なるのでしょうか。ヒトと進化的に最も近い二種の集団間関係の違いと、その違いがどのような要因で生じているのか検討することは、ヒトにおける集団間関係の進化を考える上で非常に重要であると考えられます。


【研究の内容】

本研究では、ボノボの集団内と集団間で起こる攻撃交渉のパターンを比較することで、ボノボの集団間においてどのような競合が生じているかを検討しました。コンゴ民主共和国ルオー科学保護区・ワンバに生息する野生ボノボの一集団であるPE集団を対象に、4年間にわたって約1900時間の行動観察を行いました。その間、PE集団と隣接する三集団であるPW、BI、E1集団との出会いが観察されました。観察中、同じ集団内の個体間と異なる集団の個体間の双方において威嚇、追いかけ、蹴りつけ、噛みつきなどの攻撃的な交渉を記録しました。

異なる集団の個体同士の攻撃交渉では、同集団の個体同士の攻撃交渉よりも身体接触を伴う(叩く、蹴る、噛みつくなど)頻度が高いことが分かりました。集団間の攻撃交渉はオス同士に多く、メス同士の攻撃交渉は稀でした(図2)。

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図2 PE集団の個体から他集団個体に対する攻撃的行動の頻度

怪我に至るような激しい攻撃交渉は、集団内でも集団間でも稀でした。集団が出会っている間、自集団だけでいるときよりも、自集団個体同士の攻撃交渉の頻度が減少することが分かりました。また、2頭以上で協力して他個体を攻撃する「連合攻撃行動」は、自集団個体に攻撃するときよりも他集団個体に攻撃するときに多く見られました。特にオス同士では、他集団個体を攻撃するときに、自集団個体を攻撃するときの約7倍もの頻度で連合を組んでいました(図3)。一方メスにおいては、攻撃的行動をとったオスに対し、異なる集団のメス同士で協力して攻撃することがありました。

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図3 性別の組み合わせと、連合攻撃行動(2頭以上で同じ対象を攻撃する)の頻度。平均値と標準偏差が示されている。
【結論・考察】

集団の出会いの間には自集団の個体への寛容性が高まり、自集団個体同士の協力行動が増えることから、オスにおいては集団間に繁殖相手を巡る競合関係があることが示されました。しかしながら怪我に至るような激しい攻撃はほとんどなく、他集団の個体に対し死に至らしめるほどの攻撃を加えることもあるチンパンジーに比べて、ボノボの他集団に対する攻撃性は明らかに低いこともわかりました。一方でメスにおいては集団間でも寛容な関係であることがわかりました。異なる集団の個体同士の協力行動は、ヒトに特有のものと考えられてきましたが、本研究ではボノボのメスは集団間で協力関係を築くことができることが明らかになりました。ボノボでは、集団内でメスがオスと同等かそれ以上の社会的地位をもち(もっとも順位が高い個体はメス)、社会関係では多くの場合メスがイニシアチブをもちます。そのため、集団間のオス同士に競合関係があっても、メスの意思決定が優先されて平和的な集団間関係が保たれていると考えられます。

【論文情報】

○論文タイトル:Inter-group aggressive interaction patterns indicate male mate defense and female cooperation across bonobo groups at Wamba, Democratic Republic of the Congo.

掲載誌:American Journal of Physical Anthropology

DOI:10.1002/AJPA.23929

【著者】

徳山奈帆子 (総合研究大学院大学・先導科学研究科・日本学術振興会特別研究員)研究当時:京都大学・霊長類研究所・博士課程学生

坂巻哲也 (京都大学・霊長類研究所・研究員)

古市剛史 (京都大学・霊長類研究所・教授)

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